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明日への一歩

まだ僕がホテルで働いていた15年くらい前。
その頃はフレンチレストランに配属されていたのだが、
当時よく来ていたお客様がいた。
そのお客様は、いつも綺麗な女性を連れていた。
女性はコースメニューとカクテルを、男性は毎回違うワインをオーダーした。
まず一口のワイン。
そのあとにオードブルを一皿。
それがいつものお決まりのパターンだった。
向かい合う女性が美味しそうに料理を口にするのを嬉しそうに眺め、さらにワインを一口。
その表情からは、さも至福の時を過ごしていますというのが良く分かり、傍で見る僕も嬉しく思ったものだった。
だけど。
いつもワインはグラスの底に1/3残っているのだった。
「もったいない・・・高いワインなんだけど・・・」
まだ20代前半の僕には、おいそれと口にできるものではない。
ラベルをみて、憧れのため息をつくばかりだったワインだ。
残されたワインをこっそりと一口。
「・・・これが美味いワインってやつ?」
目が点だった。
渋いような気がする。
おいしい!と飛び上がるようなわかりやすさは無い・・・気がする。
そのうえ僕は生来の下戸だ。
酒の美味いまずいには相当に疎い。
いや、でも世界的にはおいしいのだ。
おいしいはずなのだ。
じゃあ、美味いって何だろうか。
それからだった。
ワインに興味を持ち色々な本を読んだ。
1番苦戦してのは、ワインの香りを表現する言葉には
「鉄棒の香りが・・・」
冬眠していたイノシシのほのかな獣くささが・・・
白い花のニュアンスをもった・・・
鉄棒?ただの鉄の味ではないか!
結局はぬれた動物のにおいじゃないか!
白い花って何だ?梅の花か?外国の花か?それすらも分からん
そう、香りというものを意識して飲み物を飲んだことがなかったのだ。
そう意識したら、少しづつ新しいワインを飲んでみることにした。
給料日に本に載っているワインを買って飲むようにした。
いったい何本あけただろう。
奈良漬ならぬコンポートになってしまうんじゃないかと思われるころ、
本に載せられているコメントがなんとなく理解できるようになってきた。
「麦わらの香りが・・・」
あ~なんとなく麦わら帽子の香りがするかもしれない!
「カシスやベリーを思わせる・・・」
カシスやベリーって言うと、苺の酸味みたいなものか?
この、酸っぱさみたいなことかな。
それを意識しだすと、その土地の気候や風土だって関係あるのだと納得するようになった。

そして、月日は流れ・・・
僕はレストランの仕事にも慣れてきて、ある程度の仕事を任せられるところまできていた。
ある日くだんのお客様が来店された。
しかも、マネージャーは休みだった。
緊張しながらもいつものように、ワインリストを持っていくと、
「今日は、料理のメニューを先にもらえるかな?」
その日に限って、いつものオーダーの方法がちがったのだ。
オードブルとメインをことさらゆっくりと決める。
「ワインはね、きみに任せるよ」
「はい」一気に、心拍数が跳ね上がった。
こんな日に限って!という思いと、挑戦したいと言う気持ちが交錯する。
頭の中は今まで読んできた本の内容が飛び回り、その勢いでワインセラーを覗きこむ。

サンテミリオン・・・目に飛び込んで来た。
これだろう。

あの頃では分からなかった味わい、渋みと酸味のすばらしいバランス
バルサミコを使ったオードブルにも、マルサラ酒のソースのメインにも合うはずだ!
今なら、これを“美味しい”と自信をもってお薦めすることが出来る。
僕ははやる心を抑えながらお客様のもとへとむかった。
『お客様こちらでよろしいでしょうか?』
美味しいと自信をもってお薦めはできるのだが、内心ビクビクもするという芸当を
ポーカーフェイスで押し隠し、エチケットを見せる

「良く勉強してるね。これは僕の好きなワインだよ」

満面の笑顔でお客様は僕をもあげた。
「教えてくれたのは、お客様です。お客様がいたからこそ、ワインに興味を持つことができました。」
僕は心の中で頭をさげた。
目頭が熱くなる。
目を潤ませながらのデキャンタージュ
グラスに注いだワインは、今まで見てきた中で1番の美しさだった。
お客様はグラスの中でワインをゆっくりと転がし、そして一口。
その余韻はことさらにいつもよりも長いような気がした。
「うん、美味い」
「ありがとうございます」
僕は今度こそ深く深くお辞儀をした。
絨毯に涙のしみができた。
お客様に満足していただき、感動していただかなければいけない僕が、
この日ばかりはお客様に心底感動させていただいたのだ。

僕は、この仕事をする上でたくさんの事をお客様に教えていただいた。
そして、たくさんの事を気付かせていただいた。
そのきっかけが、僕を知識と経験の融合という正念場へと導いてくれたのだ。
それは今も僕の中で息づいている。
お客様の一言一言が、昨日より今日。今日より明日へと一歩一歩前進させて下さったのはまぎれもない事実。
どんな些細なことでも気付かなくてはならない。
そこからどんな些細なことも吸収したいと思う。
今もまた、毎日のなかで沢山のお客様と沢山の気付きにかこまれているのだ。
学ぶべきことは・・・まだ、ある。
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カッコいい大人

高校を卒業してすぐ僕はホテルに就職した。
やっと指示が無くても動ける様になったのは、レストラン部門に配属されて1年が経ったころだ。
ある日大きなパーティーの予約が入って、前日からグラスやお皿の準備や、
会場のテーブルセッティングなどをして当日を迎えた。

1時間前、キッチンは冷製オードブルやサラダの盛り付けで慌しくなりはじめた頃に
フロントから電話が入った。
すると言いづらそうに
『今日のパーティーのビンゴの景品が届きましたけど・・・。』
「えっ!?はい、すぐ行きます。」
急いで走っていった先、玄関には4tトラックが!! 
テレビや大きなぬいぐるみ、良い香りのするマンゴーなど、様々な景品が約100点。
予想外の出来事だった。
パーティーが始まるまでの時間を逆算すれば30分しか許されない・・・やるぞ!!
グダグダ言ってねぇで、とっとと動け!入りたてのころマネージャーによく言われたものだ。
幸いロビーには初老の男性が一人、端にあるソファーに腰掛けているだけだ。
心のなかでは頭を下げながら行動開始!
施設管理から大きな台車を借り、汗だくになり3往復・4往復・・・
「ちょっと、キミ」
いきなり声が響いた。
僕か!?慌てて見回すとソファーの男性が手招いている。
『はい!』頭の中はビンゴと開始時間までの時間をカウントする秒針のみ。
慌てた僕の声はロビ-全体に響き渡ってしまった。
「元気いいな~。これ、取っておきなさい」
初老の男性にいきなり1万円を渡された僕はなんとも微妙な表情。
「いいから、いいから、じゃぁ」
そう言って初老の男性は、スッと立ち上がり行ってしまった。
呆気にとられ数秒後、いかん!それどころではない!
俺はまた台車に飛びついた。   
それから3時間後、無事パーティーの後片付けをしながらながら
「マネージャー今日・・・」と話しをきりだした。
ほっとしたとたんポケットにねじ込んだ1万円を、もやもやと共に思い出したのだ。
『あぁ、その人は○○ホテルの支配人だよ。』
「へぇー支配人ってリッチなんですね~」
『おいおいチップのつもりか?そう言う意味じゃないよ。で、そのお金お前はどうする?』
「え?」
俺の頭には欲しい物がパアッとスクロールした。
『え?じゃない!そのお金で○○ホテルへ行って来い。これは会社を越えた横の繋がりをわざわざ作ってもらったってことだ。行って勉強して来い。』
「はい・・・」
今ひとつ意味は分からない。欲しい物リストは棚上げだ。
そして次の休日、僕は1万円を握り締めて○○ホテルに向かうことにした。
初めてレストランに予約の電話をした。
初めてサービスというものを受けた。
初めてのおもてなし
その意味を思い知らされた。
それは今までスタッフと言う立場でしかなかった僕が、お客様という目線からスタッフを見た瞬間だった。
僕はどう見えていたのか・・・帰り道はそればっかりが頭にうかんだ。

それから20年。
あの、一瞬が無ければ今の自分は無いだろう。
一瞬で人生を変えてしまう出来事、それを与えてくれる人との出会い。
それは奇跡にも等しく、俺の人生では後にも先にもあの初老の男性だけだ。
いつか自分もそんな出会いを、チャンスを人に与えられる人間になりたい。
お金の使い方は物を買うだけではない。
自分の肥やしになるような、目からうろこの落ちるような奇跡をつかむための切符にも成りえる。
自分はそれを与えることが出来るだけの器を今、てにしているだろうか・・・。
プロフィール

シャンゴ

Author:シャンゴ
群馬県にある、イタリアンの老舗「シャンゴ」のシェフをしております。宜しくお願いいたします。

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